庵原川水系

庵原川,山切川

河川整備の基本理念と基本方針

庵原川流域は、上流域の庵原山地と下流域の清水平野からなり、中上流域の丘陵地には森林や果樹園が広がり、その名を全国に広めた「いはらみかん」の産地としても知られている。下流域の平地には市街地が広がり、東名高速道路、国道1号、JR東海道本線、JR東海道新幹線などの重要基幹交通網が集中し、河口部に国際拠点港湾として整備された清水港は、県内産業の貿易拠点として重要な役割を担っている。
流域は自然に恵まれ、箇所ごとの状況に応じた多様な生態環境が形成されている。また、海側に面した丘陵地帯には縄文・弥生の時代の遺跡のほか、地域の歴史や文化を伝える神社・仏閣も多く残されている。
一方で、流域の地形的特徴から、下流部の築堤区間を中心に被害ポテンシャルが高く、また、近年、新東名高速道路関連のジャンクションやインターチェンジなどが整備されたことから、今後の流域内の土地利用の進展に伴う流出量の増加が懸念されるほか、上流域の山林の荒廃による保水力の低下も懸念される。
このような、庵原川水系の現況及び社会的・歴史的背景を踏まえ、今後の庵原川水系の河川整備の基本理念は以下のとおりとする。

基本理念

高速道路網の整備や大規模な開発などに伴い、今後も流域の開発が予想されるが、これまで流域で育まれてきた「廬原国」の歴史や文化を後世に引き継いでいくため、次の事項に特に配慮し、治水・利用・環境が調和した河川整備を行う。

◆安全で安心して暮らせる川づくり

庵原川流域の地形的特徴より、下流部における被害ポテンシャルが高くなっている。また、今後の開発要請が強い地域特性から流域内の都市化に伴う流出量の増加や、上流域の山林の荒廃による保水力の低下により治水安全度の低下が懸念される。
このため、想定される降雨に対し、洪水を安全に流下させるため、治水施設の着実な整備及び適正な維持管理に努めるとともに、河川管理の視点から適正な土地利用や森林管理、土砂災害対策など他機関と連携による流域が一体となった総合的な治水対策を推進する。
また、災害による人的被害を軽減するため、より詳細な防災情報の提供はもとより、防災教育や地域との連携による防災体制の強化、地域防災力の向上を目指し、流域住民が「安全で安心して暮らせる川づくり」に努める。
さらに、東日本大震災を踏まえた大規模地震による津波に対する安全の確保などの課題に対しては、施設整備はもとより、ハード・ソフト対策を総合的に組み合わせた多重防御による津波防災を推進する。

◆自然・文化豊かな地域の暮らしを育む川づくり

庵原川では、清水の代名詞であるシロウオをはじめとし、箇所ごとの状況に応じた多様な生態環境が形成されている。また、流域内には縄文・弥生の時代からの遺跡のほか、地域の歴史や文化を伝える仏閣が多く存在するなど歴史が古く、文化豊かな流域である。
このため、現況で見られる多様な自然環境や庵原川が本来有していた自然環境の保全・再生に努めるとともに、周辺の歴史・文化との調和を図りながら、人が川とふれあうことのできる身近な水辺空間の創出に努める。さらに、地域の活発な河川愛護活動や環境学習を支援するなど、地域住民とともに「自然・文化豊かな地域の暮らしを育む川づくり」を目指す。

河川整備計画の対象区間

本河川整備計画の対象区間は、下記に示す庵原川水系の県管理区間とする。

整備計画対象区間
水系名 河川名 区間 延長(m)
起点 終点
庵原川 庵原川 ホウノツ沢合流点 海に至る 6,700
山切川 戸倉川合流点 庵原川への合流点 5,200

出典:静岡県河川指定調書

河川整備計画の対象期間

本河川整備計画の対象期間は概ね20年間とする。
なお、本計画は、現時点における流域の社会経済の状況、自然環境の状況、河道状況等に基づき策定したものであり、策定後の流域を取り巻く社会環境の変化や大規模な災害が発生した場合、新たな知見及び技術の進歩などに合わせ、計画対象期間内であっても必要に応じて見直しを行う。

洪水、津波、高潮等による災害の発生防止又は軽減に関する目標

災害の発生防止又は軽減に関しては、流域内の人口や資産などの重要度、過去の水害の発生状況やその後の河川整備の状況を踏まえ、河川工事を行う。
河川工事にあたっては、上下流の整備バランスを考慮して近年被害を受けた主要洪水(平成2年8月、平成26年10月)と同規模の年超過確率1/10規模の降雨(時間雨量74.1mm)による洪水を河道内で安全に流下させることを目指す。
また、新東名高速道路の開通に合わせ、流域内にはジャンクションやインターチェンジが整備され、平成24年4月14日に供用開始されている。さらに令和2年には中部横断自動車道が全線開通予定など、交通の利便性向上に伴い、今後も流域の土地利用の進展が予想される地域であることから、堤防、護岸及び堰等の河川管理施設において、常に所定の機能が保たれるよう適正な維持管理に努める。
その際、多様な動植物が生息、生育、繁殖できる良好な河川環境の保全、創出等に配慮する。
河川津波対策に関しては、発生頻度が比較的高く、発生すれば大きな被害をもたらす「計画津波」に対して、人命や財産を守るため、海岸等における防御と一体となって、河川堤防等の施設高を確保することとし、そのために必要となる堤防等の嵩上げ等を実施することにより津波災害を防御するものとする。
発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「最大クラスの津波」に対しては、施設対応を超過する事象として、住民等の生命を守ることを最優先とし、地域特性を踏まえ、静岡市との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災地域づくり等と一体となって減災を目指す。

河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する目標

河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、年によっては降水量の少ない冬場に瀬涸れが生じる現状を踏まえ、健全な水環境や良好な河川環境を保全するため継続的な流況の把握を行うとともに、既存の水利用(農業用水、防火用水等)、動植物の生息・生育・繁殖環境、景観などに配慮しつつ、関係機関や地域住民と連携を図り、流水の適正かつ合理的な利用が図られるよう努める。
また、基盤整備事業(県営畑地帯総合整備事業)の展開により優良農地が確保される一方、人口減少や第1次産業人口の減少などに起因して山林が荒廃し、山林が有する保水力の低下が懸念されていることから、農地や森林の多面的機能の保全についても関係機関等と連携した取組を促進して、健全な水循環系の構築を目指す。
さらに、河川空間が花見や散策、釣りなどに利用されるとともに、川を利用したイベントや清掃活動、環境学習などが行われるなど、地域住民との関わりが深い地域であることから、河川の空間利用に関しては、流域の各々の場所において、地域住民の身近な水辺空間として、望ましい状態で利活用されるように努める。

河川環境の整備と保全に関する目標

河川環境の整備と保全に関しては、有識者や住民との連携によって自然環境、地域特性、景観、水辺空間等の様々な視点から治水・利水と調和を図りながら、シロウオなど庵原川を代表する生物や絶滅危惧種のニホンウナギなど、本来生息していたと想定される生物の生息・生育・繁殖環境の保全・再生に努める。
生物の生息生育環境については、不必要な横断工作物の撤去や必要に応じた魚道設置を図るなど、河川上下流、海及び河川周辺、河川内の水域と陸域といったエコトーンとしての連続性を確保するとともに、外来種への対応策について検討するなど、川が有する自然の営力を活用しつつ、河道内植生や魚類等水生生物の生息・生育・繁殖環境に配慮した整備を推進する。
河川の水質については、シロウオをはじめ多様な動植物が生息・生育し、人々が水とふれあえる豊かで清らかな水環境を保全・創出するため、関係機関や地域住民と連携し、汚濁負荷量のさらなる削減を働きかける。
また、整備に際しては、学識経験者、地域住民等との連携のもとに、目指すべき環境について関係者が共通の目標を持ちながら取り組み、周辺の歴史・文化と調和を図りながら、人が川とふれあうことのできる身近な水辺空間の維持・創出に努める。

河川と地域との関わりに関する目標

庵原川は地域の歴史や文化と密接に結びつくとともに、住民による継続的な河川愛護活動が行われるなど、地元住民にとって身近な空間となっている。
この流域の歴史・文化・風土、豊かな自然環境を踏まえ、流域の人々が身近な河川空間に一層の関心を寄せ、ますます地域から愛される川となるよう、静岡市のまちづくりに関する諸計画との調整を図りつつ、地域住民や企業など関係機関との協働による河川整備を推進する。
また、日常生活における河川と地域住民との接点が増え、防災意識や河川愛護の精神が育まれ受け継がれていくよう、容易に川へ降りられるような対策を講じるほか、各種情報を幅広く提供し、地域住民の河川に対する意識向上を図るとともに、主体的な住民活動が流域全体に広がるよう連携や支援を推進し、地域防災力の向上や良好な地域のネットワーク、コミュニティの強化促進を図る。また、整備に際しては、学識経験者、地域住民等との連携のもとに、目指すべき環境について関係者が共通の目標を持ちながら取り組み、周辺の歴史・文化と調和を図りながら、人が川とふれあうことのできる身近な水辺空間の維持・創出に努める。